第八話【孤独に対する不安】

抵抗しようと思えば抵抗できた。ピットは俺を押さえつけているものの その力は弱い。緊張で体が震えていた所為だろう。そんな状態のピットなら簡単に突き飛ばせた。でも しなかった。なかなか答えを出せなかった罪悪感で抵抗しないのか、自分で自分に問うてみたが違う気がする。そうじゃなくて―――、



―――“誰か”が髪を優しく撫でてくれている。

部屋に朝の光が差し込み少し眩しくて寝返りを打つと一瞬 髪を撫でてくれていた手が止まるが俺が静かに寝息を立て始めると また撫でてくれる。心地よさに 夢か現実かも分からない この時が ずっと続けば良いとさえ思いながら また深い眠りに落ちた。


――そして 今度は二度寝した事も あって まどろむ事もなく すぐに覚醒した。が、すぐ横に いる筈の“誰か”が いない。「あ…れ、ピット?」呼んでみたが返事が帰ってこない事から“誰か”もといピットは既に この部屋を出たのかと推測する。と急に物悲しくなって涙さえ出てきた。独りが怖いのだ。マルスには そんな事 言えないし独りにしないでと願うだけ無駄と言うものだ。だけどピットなら違うと思っていた。ピットなら絶対に独りにしないと。だから今、裏切られた様な気分になって涙が止まらない。子供の様に しゃくりあげて泣くのは久々で……、もう こうなったら気が済むまで泣こうと思った時だった。「え…、リンクさん!?何で泣いてんですか!?」風呂上がりの様子のピットが髪に雫を滴らせたまま俺に近寄る。俺の泣いてる声を聞きつけて髪を乾かす時間も惜しんで急いで来てくれたのだろうか。そう思うと嬉しい反面、自分以外に誰もいないと思っていたから思い切り泣いていたのに、と自分勝手ながら恥ずかしくなって涙が引っ込み、「あ、いや、これは、その…、」と しどろもどろに説明しようとするも意味を成さない俺の言葉を遮って「すいません。不安に させてしまいましたか?…その、流石に お風呂に入らないと、と思って風呂場を借りさせて貰ってたんですけど…、」と弁明してくれる。「あ、あぁ、…うん。」やっと それだけを言った後ふと (そういえば昨夜 勢いに任せた様にヤってしまった…、)と今更ながら思い出してマルスに対する罪悪感を少なからず持った時、ピットが「あ、そうだ。リンクさんも お風呂に入ってきて下さいね。」俺が風呂に入っている間に昨夜の情事の所為で汚れたシーツも洗ってしまうのだと言う。



続く